【大阪府委託】リレーエッセイ 令和6(2024)年度 第2回 認定NPO法人 大阪被害者支援アドボカシーセンター事務局長 木村弘子さん
...令和6(2024)年度 第2回...
ニーズ高まる犯罪被害者支援、
公的なバックアップで盤石な基盤を
木村弘子さん
(認定NPO法人 大阪被害者支援
アドボカシーセンター 事務局長)
「心のケア」を原点に始まった活動
認定NPO 法人大阪被害者支援アドボカシーセンターの成り立ちは、1995年に発生した阪神・淡路大震災にさかのぼります。被災して大切な人やものを失い、心に傷を負った人たちのために大阪YWCAが「心のケアネットワーク」を立ち上げ、被災者・被害者支援を始めました。1996年に全国で3番目の民間被害者支援組織として「大阪被害者相談室」を開設、2002年に「NPO法人 大阪被害者支援アドボカシーセンター」に改称しました(2013年に認定NPO法人に認定)。
アドボカシーとは、「権利擁護」「代弁する」という意味です。思いもよらぬ事故や犯罪、災害に遭い、あるいは大切な家族を傷つけられたり、失ったりした人は心に大きな傷を負います。同時に警察の事情聴取を受けたり、さまざまな手続きをしなければなりません。その精神的負担は大変なものです。さらに、生活していくためには働かねばなりませんし、育児や介護を担っている人もいます。被害だけに集中していられる人はいないと言ってもいいでしょう。そうした状況にある人たちに寄り添いながら人権を擁護し、思いを代弁するのが私たちの役割です。
被害者支援の社会的認知とともに
1995年の設立当初は「心のケア」の重要性が社会的に認知されておらず、まして犯罪被害を受けた人や家族の支援はほとんどありませんでした。しかし、地下鉄サリン事件や大阪教育大附属池田小学校児童教師殺傷事件、東日本大震災など大きな事件や災害のたび、また当事者や遺族が声を挙げることで、被害者支援の必要性が認知されるようになってきました。
2004年に「犯罪被害者等基本法」が制定され、翌2005年に「犯罪被害者等基本計画」決定、2008年には「被害者参加制度・損害賠償命令制度」が開始されました。
こうした社会の動きに並行して、私たちも2008年に大阪府公安委員会から「犯罪被害者等早期援助団体」の指定を受けました。電話相談から始まった活動も面接相談、裁判所や病院などへの付き添い、裁判の代理傍聴やマスコミ対応など多岐に渡るようになってきました。
私たちがおこなう被害者支援はすべて無料です。国や行政からの財政的な支援は少なく、個人や団体からの会費や寄付によって支えられています。支援を継続するためにはスタッフの養成や安定した雇用が不可欠ですが、財政的基盤はかなり脆弱なのが課題です。
励ます前に気持ちに寄り添って
いくつか支援制度ができたなかで、特に大きかったのは刑事裁判の「被害者参加制度」です。被害者が検事の横に座って傍聴したり、被告人に質問したり、証人に尋問したりできるようになりました。参加できる罪種は限られてはいますが、この制度を使える方はほとんど使われます。
2000年まで、被害者や家族は裁判が始まってもかやの外に置かれていました。いつから裁判が始まるのかも知らされませんし、日程がわかり傍聴したいと思っても一般の人と同じように抽選に当たらなくてはいけませんでした。
裁判を傍聴してこそ、犯人の動機や事件の経緯が多少なりともわかります。知るのは辛いですが、知らないままでいるのはもっと辛いのです。
被害者やご家族に寄り添ってきた私たちも、被害者の支援や参加が進んできたことをうれしく思っています。裁判への参加という心身に大きな負担がかかる場面で100%の力を発揮していただくために、関係機関との細やかな連絡調整や検事との打ち合わせの同行など、丁寧なケアや準備を担っています。
支援している被害者等の事件の罪種のうち、もっとも多いのは性犯罪で約三分の一を占めています。次に殺人・傷害致死等、危険運転致死傷・死亡事故と続きます。
ご本人にしろ、ご遺族にしろ、二次被害に苦しまれる方が多くいらっしゃいます。報道や裁判だけではなく、身近な人との交流の中で傷つくことも少なくありません。たとえば「がんばって」「元気出そうよ」など、言う側にすればはげますつもりで、傷つけるつもりなど全くない言葉です。けれど、事件直後から精一杯がんばっている当事者は「これ以上がんばれないよ」という気持ちになってしまいます。
一方、当事者でない人の戸惑いもわかります。辛い話を聞いていると切り上げたくなります。「簡単に励まされると余計に辛い」などと言われたら、「どう接すればいいのかわからない」と距離を置きたくもなりますね。
ただ、被害者の心持ちは常に同じではないことを理解してほしいと思います。話を聞いて欲しい時もあれば、話したくない時もあります。被害者が話したい時に、聴ける余裕があれば、しっかり聴いてください。「十分聴いてもらった」と納得した上での励ましの言葉なら伝わります。
各市町村に「犯罪被害者等支援条例」を
現在、すべての都道府県に犯罪被害者等支援条例があります。大阪府の条例には「被害者支援調整会議」が位置付けられており、事件後の早い段階から、被害者の了解を得て大阪府や大阪府警、私たち、そして被害者が住んでいる市町村も参画してチームで情報を共有し「オール大阪」で被害者をサポートしています。
しかし、市町村では犯罪被害者等支援条例の制定が進んでいません。大阪府では全市町村の四分の一にとどまっています。被害者に必要な支援は多岐に渡りますが、生活レベルでの支援はやはり市町村によるところが大きいです。
これまで行政と犯罪被害者がつながることは、ほとんどありませんでした。犯罪被害に遭った人がいなかったわけではなく、大変な思いをしながら生活されていたのです。犯罪被害者等支援条例が市町村レベルまで行き渡り、生活と心身の回復をサポートする基盤が整うためにも、被害者支援の現状と必要性を多くの人に知って欲しいと思います。