【大阪府委託】リレーエッセイ 令和7(2025)年度 第1回 堺市「堺大空襲 次世代の語り部育成」の取り組み

…令和7(2025)年度 第1回…
堺市×羽衣国際大学 戦後80年に向けた
「堺大空襲 次世代の語り部育成」の取組

 堺市
 ダイバーシティー推進部
 

1.堺市「次世代の語り部育成事業」の概要

 堺市では、堺大空襲の歴史や、平和の大切さを次世代に伝えるために、ピースメッセンジャー(※1)という語り部ボランティアを派遣しています。ピースメッセンジャーは登録制で、堺大空襲の体験者が活動されています。
 しかし、ピースメッセンジャーを担っていただいた方々の高齢化で、活動を継続することが難しくなってきました。そこで、令和6(2024)年度から次世代の語り部育成に取り組むことになりました。
 「次世代の語り部育成事業」は、ピースメッセンジャー等の貴重な体験談を継承するため、次世代の方々を新たな語り部として育成するもので、堺大空襲の歴史や平和の大切さを継続的に伝えることをめざしています。
 ※1「ピースメッセンジャー」とは
  堺大空襲(昭和20(1945)年7月10日)の体験を語り継ぐ登録ボランティア(無償)。
  平成26(2014)年から事業を開始し、今まで延べ8人の方が登録されていました。

(1)第1期 次世代の語り部育成 ~羽衣国際大学と連携~(令和6(2024)年度)
  次世代の語り部育成事業は段階を経て実施しており、第1期次世代語り部は羽衣国際大学と連
 携した「プロジェクト演習」(※2)により育成されました。「プロジェクト演習」の流れは
 次のとおりです。
  ①「戦争に関する基礎知識」の習得などを目的とした研修の実施
  ②学生がピースメッセンジャーとの交流を通して、説明資料の構成を検討
  ③この間の学習や交流をもとに、学生が説明資料等を作成
  ④市職員、小学生に対して実際に講話を行い、説明資料等を改善し、完成
   ※2 「プロジェクト演習」とは
    羽衣国際大学の授業科目の一つ。地域社会の団体や企業がプロジェクトを提案し、学生
   たちが地域団体との協働で社会の課題に取り組む科目。

  第1期 プロジェクト演習の取組の様子を次の通り、ご紹介します。
  ①学び
   まずは、語り部自身の学びから始まりました。
   次世代の語り部たちは、戦争のことをあまり知りません。堺市立平和と人権資料館を訪れ、
  戦争体験談を聴いたり、平和と人権資料館職員から説明を受けたりと、戦争の学びを深めて
  いきました。
   戦争体験談に協力してくださったのは、前堺市人権教育推進協議会副会長の久保照男さんで
  す。堺大空襲を語る久保さんの穏やかな口調に、語り部たちは静かに聞き入りました。

  ②交流
   学びの中で、次世代の語り部たちに戦争への思いが芽生えました。感じたこと、疑問に思っ
  たことなどを、少人数に分かれてピースメッセンジャーと話し合いました。交流を通して、次
  世代の語り部として伝えたいことが次第に固まりました。

  ③自分の言葉で
   次世代の語り部たちは、ピースメッセンジャーの思いを受け止め、自分たちの言葉で、こども
  たちに伝えました。
   ・どうすれば、こどもたちに戦争のことが伝わるか
   ・どんな工夫があれば、こどもたちの興味を引くか

   次世代の語り部たちも戦争を知りません。だからこそ何が伝わりにくいのかが分かります。
  弱みを強みに変えて伝え方を工夫し、シナリオや説明資料を丁寧に作っていきました。

  

  ④さあ、学校へ
   最後の確認です。小学生の前で、語り部として講話をします。大切なのは、ピースメッセン
  ジャーから託された平和への思いを、自分たちの言葉で伝えること。語り部たちは、自分たち
  の中で育った平和への思いを精一杯小学生に伝えました。
   小学生との関わりのなかで、語り部たちは気づきをもらいます。この気づきからシナリオや
  説明資料を改善しました。

(2)第2期 次世代の語り部育成(令和7(2025)年度 演習実施中)
  第2期次世代語り部は、羽衣国際大学だけでなく、広く一般の方からも募集し、38人の
 応募があり、羽衣国際大学の学生と一緒に、第1期と同様の演習を受講しています。
  ピースメッセンジャーとの交流や、堺市立平和と人権資料館での研修により、堺大空襲への学
 びを深め、演習の最後には実際に市内の小・中学校などで戦争の恐ろしさや平和の大切さを伝え
 る講話を実施しています。

(3)第3期 次世代の語り部育成 ~今後の予定~
  今後の予定として、第1・2期と同様に事業実施を予定。

2.「次世代の語り部育成」を実施しようとしたきっかけ

 令和5(2023)年5月29日に長崎市で実施された「日本非核宣言自治体協議会 第40回総会・研修会」に堺市人権推進課職員が参加し、そこで被爆体験の交流証言者(26歳、長崎市出身の次世代の語り部)の話を聞いたことがきっかけでした。
 堺市でもピースメッセンジャーの人数が減少し、堺大空襲の次世代への体験継承が急務となったため、堺大空襲 次世代の語り部育成事業を行うことになりました。

3.羽衣国際大学と連携することになったきっかけ

 堺市は次世代の語り部の担い手として学生の協力先を探し、羽衣国際大学で平和学を専門分野とする、水飼専任講師に協力を依頼しました。そこで、羽衣国際大学において「プロジェクト演習」の企画公募があることを知り、「堺大空襲 次世代の語り部育成事業」をテーマとして応募したところ、令和6(2024)年7月8日に採択されました。

4.「次世代の語り部育成」で大事にしてきたこと

 堺市では堺大空襲の歴史を継承するだけでなく、戦争体験者の「思い」を継承することを大切にしています。動画や資料で戦争を学ぶことも大切ですが、人から人へと継承することが、人の心を動かすと考えています。
 また、小中学生の平和学習を充実させることを主な目的とし、次世代の語り部が小学校45分、中学校50分で授業ができるように育成しています。一方的に講話するだけではなく、「焼夷弾の模型を見せる」「クイズにして考える」「話し合いの場面をつくる」など、小中学生が興味をもって授業に参加できる工夫を取り入れています。

5.事業に参加した大学生(次世代の語り部)の感想

   堺大空襲について、ほとんど知らなかった私たちが、半年間で、体験を聞き、資料を作成
  し、講話をするというのは、大変でしたが、それ以上に、たくさんの貴重な経験をすることが
  できました。語り部の方と交流し、その方の想いを知って、心が動かされました。資料から歴
  史を学ぶのとは違う感動がありました。(Kさん)

   私は、何よりも、命の大切さをこどもたちに伝えることができたことが、嬉しかったです。
  アンケートに、「戦争についてもっと知りたい」「ちょっとしたことでも、ありがとう、ご
  めんなさいを言いたい」等と書いてあり、語り継ぐことで、身近なところから平和を守ってい
  きたい、と思いました。
   授業後、こどもたちから、「なぜ戦争が起こったのか」「戦時中、大人は、何をしていたの
  か」等の質問があがりました。こどもたちからの率直な質問に答えるのはとても難しいですが
  今後、もっと戦争について理解し、準備したいです。そして、こどもたちの質問に答えながら
  インタラクティブに授業を進められるようになりたいです。(Oさん)

*今回のリレーエッセイでは、堺市 市民人権局 ダイバーシティ推進部 人権推進課から原稿提供等のご協力をいただきました。

 事業の詳細

  https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/jinken/jinken/jisedainokataribe.html

【令和7(2025)年8月掲載】